電圧とは?
電圧は2点間の電位差です。水と電気の類似性から圧力とも呼ばれます。
ポンプを内蔵した水道管の閉鎖系を考えてみましょう。ポンプは水をパイプの中に送り込み、圧力の差を使って水を動かします。この圧力が水を押し出すことで、タービンを回すなどの仕事ができるのです。
回路内の電圧, 電流, 抵抗の関係
この例では、水は電気を表しています。ポンプは電源です。電源が回路に与える圧力が「電位」、水が動く量が「電流」です。
ここでは電圧に焦点を合わせましょう。
AC(交流)電圧 対 DC(直流)電圧
電圧には流れる電流によって直流(DC)と交流(AC)があります。DCシステムでは電流は決して方向を変えません。一方向性で極性は変わりません。
一方ACシステムの場合は、0Vを正方向に通過した後反転して0Vを負方向に通過するというように、電流が交互に流れます。下のグラフは、DCとACの電圧(と電流)を表しています。
DC回路(左)とAC回路(右)
DC電圧は一般的な単四電池や、車のエンジンをかけるための大きなバッテリーなどがよく知られています。AC電圧は、家庭やビジネスで使用されるAC100VやAC230Vがよく知られています。
電圧計測の用語について
「シングルエンド・リファレンス」, 「シングルエンド・ノンリファレンス」, 「ディファレンシャル」などの言葉を聞いて、電圧計測の意味を疑問に思ったことがあるかもしれません。
それは基準点の問題です。冒頭で「電圧とは2点間の電位差である」と説明したことを思い出してください。
シングルエンド計測
シングルエンド計測とは、グランドを基準にして行われる計測です。信号はプラスの線にのみ伝えられ、もう一方の線はグランドを基準にしています。しかし、このグランドは誰が提供するのでしょうか?
計測器がグランド基準を提供する場合、その計測は「リファレンス, シングルエンド」に分類されます。これはしばしばRSEと省略されます。
リファレンス・シングルエンド計測(RSE)の例
一方、信号自体がグランド基準を提供する場合、その計測は「ノンリファレンス, シングルエンド」に分類され、NRSEと略されます。
ノンリファレンス・シングルエンド計測(NRSE)の例
差動電圧計測
グランドを無視して回路の2点間を計測すると、差動計測になります。この2点間の差を計測しているので、差動と呼ばれています。シングルエンドのシナリオでは1つの信号を計測するところを、実際には2つの信号を計測しています。各差動チャネルには実際には2つのプリアンプが内蔵されており、これらの入力はグランドに対してフローティングになっています。
差動(DIFF)計測の例
フローティングシグナルソース
また、信号源が「フローティング」であると耳にすることがあります。これは簡単に言えば、グランドに直接接続されていないということです。このような信号源の一般的な例は、バッテリーです。フローティング信号源の出力から計測する場合は、計測システムがグランド基準を提供する必要があります。
アベレージ, RMS, ピークツーピークとは何ですか?
電圧はいくつかの方法で数値化することができます。これらの一般的な用語とその意味を見てみましょう。
正弦波のピーク, アベレージ, RMS項の視覚化
平均電圧(VAV)は、その名の通り1周期間の平均値です。純粋な正弦波信号の場合、波形の最初の正半分の電流量と負半分のサイクルの電流量が等しいため、平均値はゼロになります。これらの電流は互いに打ち消し合ってゼロになります。そこで1サイクルの半分だけを取り出して、ピーク(最大)値を取り、それに0.637を掛けて平均値を定義します。
RMS電圧(二乗平均平方根 別名VRMS)とは、連続波形を定義する関数値の二乗の平均の平方根です。正弦波信号の一般的なRMSの計算方法は、ピーク値に0.707を掛けることです。RMSは、AC電圧を表す最も一般的な方法です。
ピーク電圧(VPKまたはVMAX)は、1周期内の最高電圧値を表します。
ピークツーピーク電圧(VPK)は、1周期内の正と負のピーク全体の振幅値を定義します。
クレストファクタとは、最大ピーク値をAC波形のRMS値で割った比率です。DC電圧レベルや矩形波にはピークがないため、クレストファクタは1ですが、純粋な正弦波のクレストファクターは1.414です。
ほとんどの計測システムでは、アベレージ, RMS, ピーク、クレストファクタの値は、通常はデータ収録システムで選択したサンプルレートのサブセットで一定期間にわたって計算されます。これは、これらの値を表示する非常に便利な方法です。
例えば、データ収録ソフトDewesoftXでは、これらの値を任意に選択し、選択したサンプルレートの除数で計算することができます。ここでは、表示/記録する統計値を選択するセットアップ画面の一例をご紹介します。
DewesoftX 基本統計設定画面
1.入力 | [入力]グループでは、必要な統計値を算出したい入力チャネルを選択できます。 統計は複数の入力チャネルをサポートしています。 |
2.出力チャネル | ここでは計算する必要のある統計情報を選択することができます。 それらは個別の出力チャネルとして表示されます。 |
3.計算タイプ | [計算タイプ]グループでは、計算のパラメーターを定義できます。 |
4.出力 | 出力エリアでは、選択した「入力」で計算された統計値のクイックプレビューが表示されます。 この統計値は、「出力チャネル」と「計算タイプ」で選択されたオプションに基づいて、チャネルとして出力されます。 |
下の図は表示画面です。チャネルはシンプルな数値表示からストリップチャート, 棒グラフなど, さまざまなグラフィックで表示できます。
実際の波形(上)と、下のチャートやデジタルメータの統計値を表示するDewesoftXの表示画面
コモンモード電圧とは? コモンモード除去とは?
コモンモード電圧とは、信号源の両方のリード線に存在する信号のことです。実際には両方のリード線に同一の信号が存在することはないので、コモンモードは通常、シグナルチェーンに入り込んだノイズです。
コモンモード電圧を除去または低減するための最良の方法は、差動計測を行うことです。
説明のため、少し戻ってみましょう。先ほどのシングルエンドの計測では、1台のプリアンプでプラスの信号線を計測しています。もし信号にノイズが混入してしまったら、どうやって見分けるのでしょうか? 何が本当の信号で、何がノイズなのか、どうやって知ることができるのでしょう?
おそらく経験上、信号の上に60Hzが乗っているのがわかると思うのですが難しいですね。
差動アンプの表現
コモンモード信号を除去する最も基本的な方法は、差動アンプを使用することです。このアンプには正と負の2つの入力があり、2つの入力の差だけを計測します。
コモンモード除去
センサケーブルに乗った電気ノイズは、信号のプラスラインとグランド(または信号のマイナス)ラインの両方に存在するはずです。両方のラインに共通する信号は差動アンプで除去され、下図のように信号だけが通過します。
差動アンプは、CMV電圧範囲内のコモンモード電圧を正常に除去する
しかしアンプが除去できるコモンモード電圧(CMV)の量には限界があります。信号ラインに存在するCMVが、差動アンプの最大CMV入力範囲を超えると、出力が「クリップ」してしまいます。その結果、下の図のように歪んだ使い物にならない出力信号になります。
差動アンプはCMVの入力範囲を超えると歪んだりクリップしたりする
そのためこのようなケースでは、CMVや一般的な電気的ノイズ(次のセクションで説明するグランドループも同様)から保護するための追加のレイヤー、つまりアイソレーション(絶縁)が必要になります。
絶縁型アンプの入力はコモンモード電圧よりも「高く」なります。それらは1000ボルト以上のブレークダウン電圧を持つアイソレーションバリアで設計されています。これにより非常に高いCMVノイズを除去し、グラウンドループを排除することができます。
絶縁型差動アンプは、非常に高いCMVをも除去する
絶縁型アンプでは、入力と出力を切り離す(フロートさせる)ために小型のトランス,小型のフォトカプラや容量性カップリングを使用したりして、このアイソレーションバリアを作り出しています。一般的には、最後の2つの方法が最も優れた帯域幅性能を提供します。
グランドループとは何ですか?
グランドループを防ぐことができなければ、計測システムにとって深刻な問題となります。 グランドループは、「ノイズ」発生源となりますが、電気機器が誤って複数の接地経路を生成することで発生します。これらの接地点で電位差が生じると、その間に電流が流れ電流ループが発生します。これにより信号に歪みが生じ、その歪みが大きければ計測が台無しになってしまいます。
下の図では、計測アンプは片側でグランド(GND 1)に接続されています。非対称シールドケーブルを使用してセンサを接続します。センサの金属ハウジングはGND 2の導電面に配置されています。ケーブルの長さにより、GND1とGND 2の間に電位差が生じます。この電位差が電圧源のように働き、周囲からの電磁ノイズと結合します。
接地電位差によって生じるグランドループ
センサをGND2から切り離すことができれば、問題は解決するかもしれません。しかし、できない場合もあります。さらに安全上の理由でケーブルシールドのリファレンスが必要な場合もありますので、切り離してはいけません。
最良の解決策は、シグナルコンディショナ内で絶縁された差動アンプを使用することです。これだけで問題は解決します。
アイソレーションによる差動接地電位問題の解決
グラウンドループは計測器自体の電源からも発生します。計測システムは接地基準のある電源に接続されていることを忘れないで下さい。したがって計測器内でグラウンドループが発生しないように、このリ基準を計測器の信号処理コンポーネントから切り離すことが重要です。
電源によるグランドループ
上記計測系は、配線が故障した場合に危険になります。電源からの高電流経路を見て、もしも戻り線が断線したらどうなるでしょうか? すべてのエネルギーは、DAQハードウェアのシグナルコンディショニング部を経由して送られます。その結果、システム全体がダメージを受けたり、破壊されたりさらには機器を操作するオペレータにも危険が及びます。
電源が引き起こすグラウンドループの危険性
信号経路を電源から完全に分離することで、上記のような危険が発生することはありません。
重要なアイソレーション用語
以上のことから私たちの計測システムには少なくとも差動、できれば絶縁されたアナログ信号入力が必要であることは明らかです。
しかし、様々な計測システムやシグナルコンディショナのアイソレーション仕様を確認していると、次のような用語で指定されていることがあります。
- チャネル - グランド間
- チャネル間
- バンクアイソレーション
これらの用語は何を意味し、どのように関連していますか?
チャネル - グランド間のアイソレーション
チャネル - グランド間のアイソレーションは、チャネルの入力と機器のグラウンドの間に発生する最大電圧を定義します。通常、機器のグランドは電源のグランドを基準にしています。シグナルグラウンドをシャーシグランドから分離することで、ほとんどのグランドループの問題を排除できます。
チャネル - グランド間のアイソレーション
これを「入出力アイソレーション」と呼ぶこともあります。すべてのチャネルは共通のグランドを持ち、そのグランドは機器のグランドまたはアース電位から絶縁されています。これはシステムに1つの信号源しか接続されていない場合には制限とはなりません。しかし、グランド電位差のある信号が追加で接続されると、すべての信号にノイズが発生したり、コモンモードの問題が発生したりします。
2つ以上のチャネルが共通のグランドを共有している場合、ガルバニック絶縁されていません。計測器に入力から出力またはチャネルからグランドへのアイソレーションしか記載されていない場合は注意が必要です。
チャネル間アイソレーション
チャネル間アイソレーションとは、あるチャネルと他のチャネルとの間に存在する最大電圧を定義するものです。 チャネルはグランドを共有することはできません。 また、各チャネルはシステムの他の部分(例えばシステムの電源電圧, シャーシグランドなど)から絶縁されていなければなりません。すべてのチャネルが互いに絶縁されていれば、必然的にグランドからも絶縁されているので、チャネル間アイソレーションには、チャネル - グラウンドのアイソレーションも含まれます。
チャネル間アイソレーション
つまり、あるシステムがチャネル - グラウンド間のアイソレーションをされている場合でも、必ずしもチャネル 間のアイソレーションがされているとは限らないのです。しかし、チャネル間のアイソレーションがされているシステムは、チャネル - グランド間のアイソレーションがなされています。
DEWESoftのSIRIUS DAQシステムは、次のビデオで紹介されているように、チャネル間およびチャネル - グラウンドの両方のアイソレーションを提供します。
バンクアイソレーション
バンクアイソレーションは、チャネル数の多いシステムでよく採用されます。このシナリオでは、チャネルはグループでアイソレーションされ、共通のアイソレーションを共有します。これはコスト削減のためやむを得ず行われます。
絶縁コンポーネントはスペースを取り、電力を消費します。超高密度の計測システムでは、文字通り、各チャネルを個別に分離するための十分なスペースがない場合があります。
この記事の後半で電圧用のDEWESoftシグナルコンディショナを見てみると、SIRIUS-HD(高密度)シグナルコンディショナは、2チャネルごとにアイソレーションパスを共有するペアでバンクアイソレーションされていることがわかります。その他のSIRIUSシグナルコンディショナは、チャネルごとに絶縁されています。
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安全規格「CAT」とは何ですか?
高電圧入力の計測器の仕様書を見ると、「CAT II」や「CAT III」といった用語があり、その横にはいくつかの電圧レベルが記載されています。これらは何を意味しているのでしょうか?
「CAT」とは、ライブ回路に対して機器の使用方法と使用場所を示すIEC(国際電気標準会議)の計測カテゴリのことです。CATには4つのカテゴリがあり、ローマ数字のI、II、III、IVで表示されています。
これらのCAT値は基本的に機器の設置場所を意味します。この値が最も低い場合は、高電圧や過渡現象の電位から最も遠い場所に機器が設置されることを意味し、CAT IVは高電圧や過渡現象の発生源に非常に近い場所を意味します。
これらのCAT値の中には、その値までの過渡現象に対する機器の耐性を示す電圧値が含まれていることがよくあります。CAT II-1000Vに格付けされた機器は、もちろんCAT II-600Vに格付けされた機器よりも多くの高レベルの過渡現象に耐えることができます。
CAT値の例 場所
場所ごとのCATレベルと安全基準
基本的に機器が電圧電源の主電源に近いほど、危険な過渡電圧が機器に侵入する可能性が高くなるためCAT番号が高くなります。
動作電圧とCATによる過渡過電圧保護
カテゴリ | 動作電圧 | ピークトランジェント | テストソース |
---|---|---|---|
CAT II | 600 V | 4000 V | 12Ω |
CAT II | 1000 V | 6000 V | 12Ω |
CAT III | 600 V | 6000 V | 2Ω |
CAT III | 1000 V | 8000 V | 2Ω |
CAT IV | 600 V | 8000 V | 2Ω |
上の表で「動作電圧」とは、アースに対するDCまたはAC RMSを指します。ピークトランジェントとは、特定の電圧レベルでの20インパルスを指します。テストソースインピーダンスはV / Aに起因します。
CAT III以上のソースインピーダンスは2Ωであるのに対し、CAT IIでは12Ωであることにも注意してください!
A = V/R(オームの法則-電気工学の基本的な考え方)によると、2Ωのソースは12Ωのソースの6倍の電流が流れます。このため、CAT番号自体が、それに続く電圧値よりも重要なのです。
では、高電圧アプリケーションに必要なCATレベルと電圧を知るにはどうすればよいのでしょうか?
高電圧には機器の安全性だけでなくオペレータの安全性も含まれるため、危険な高電圧トランジェントに関しては常に最悪のケースを考慮し、計測オペレータを守るための機器を選択してください。
CAT規格を持つDEWESoftシグナルコンディショナ
製品 | シグナルコンディショナ | CATレベル | CAT電圧 |
---|---|---|---|
SIRIUS | SIRIUS-HV | CAT II | 1000 V |
SIRIUS-HS-HV | CAT II | 1000 V | |
KRYPTON ONE | 1xHV | CAT II | 1000 V |
1xHV | CAT III | 600 V | |
1xTH-HV | CAT II | 1000 V | |
1xTH-HV | CAT III | 600 V |
信号過負荷/過変調とは何ですか?
信号レベルが予想以上に高くなるとADコンバータによってクリップされ、誤った測定結果となりテストをやり直さなければならなくなります。これらは信号の過負荷, クリッピング, 過変調などと呼ばれます。
エンジニアは何十年もの間、高ダイナミックレンジの信号に悩まされてきました。ダイナミックレンジとは、信号の振幅の最小値と最大値の差のことです。主の計測信号はミリボルトの範囲にあり、時折80Vまで跳ね上がることがあるとします。信号が上昇したときにクリップしないように入力レンジを100Vに設定すると、信号がミリボルトの範囲にあるときの分解能が最適ではなくなってしまいます。
そこで、エンジニアは同じ信号を計測システムの2つのチャネルに入力し、ゲインを別々に設定することでこれらに対処してきました。 これでほぼ問題は解決しますが、新たに2つの問題が発生します。
- システムには2倍の計測チャネルが必要
- テスト後に2つのチャネルのデータを手動で結合して、各チャネルの複合データを作成する必要があるためデータの解析が大変煩雑になります。 特に多くのチャネルを掛け合わせる場合、膨大な作業量と追加の分析に負担がかかります。
この良い解決策は、各入力チャネルに2つのADCを搭載することです。 それぞれが異なるゲインに設定され、高速プロセッサが信号を最も適したADCを自動的に選択して、それらを1つの収録データに結合してくれるDAQシステムです。
SIRIUSのDualCoreADC®テクノロジは、各チャネルアンプに入力信号の高ゲインと低ゲインを常に計測する2つのADCがあります。これによりセンサの全計測範囲が得られ、収録データがクリップされるのを防ぎます。
上の動画では、その仕組みを詳しく紹介しています。
DEWESoftのDualCoreADC®テクノロジは、S/N比130dB以上、ダイナミックレンジ160dB以上を実現します。これは24ビットシステムの20倍の性能であり、ノイズは1/20です。
電圧トランスデューサ(変換器)
アナログ電圧信号を計測できる機器はすべて直接計測できますよね? では、なぜ電圧変換器が必要なのでしょうか。
大抵のDAQシステムとデータロガーは、0~10Vまたは0~50Vの範囲の低電圧と中電圧を直接受け入れることができるため、この電圧を低減または変換するためのセンサやトランスデューサは必要ありません。
50Vから約1000VまではSIRIUS-HVモジュールのようなDAQシステム用のシグナルコンディショナがあり、これらの電圧を直接かつ安全に受け入れ内部で降圧してデジタル化し表示や保存を行うことができます。
しかしより高い電圧の場合あるいは生命にかかわるような電流や電圧が存在する場合には、高電圧変圧器を使って高電圧を降圧しオペレータを危険な電圧や電流から隔離することが不可欠です。このような装置は、電圧トランス(VT)または変圧トランス(PT)と呼ばれます。
一般的なポテンシャル変圧器
一般的なPTセンサには10kV以上の非常に高い電位を安全なレベルまで下げるためのトランス(変圧器)が搭載されています。 このトランスは計測対象の回路に直列または並列に配置することができます。トランスの1次巻線は、2次巻線に比べて巻き数が多いのが特徴です。
通常接続されるデータ収録機器は非常に高いインピーダンスを持つため、電流はほとんど流れずPTの2次巻線にはほぼ負荷がかかりません。多くののPTは50~200Vの電圧を出力し、ほとんどのDAQシステムで計測が可能になります。
PTには、屋外用のものと屋内用のものがあります。また電気計測用に設計されたものもあります。 純粋なトランス式ではなく中間トランスの後にコンデンサを入れて、さらに電圧を下げるタイプもあります。これらは降圧比の高い従来の巻線型トランスに比べて、降圧比の比較的低い中間トランスの方が低コストで済むからです。
3つ目のバリエーションは光学式VTです。光学式VTは通常変電所で使用され、DAQアプリケーションではあまり使用されません。磁界によって光の偏光が直接影響を受けるファラデー効果の原理で動作するため、本質的に絶縁されており出力は非常に正確です。
36kVと200kVの屋外用VT。 写真提供:ABB
電圧トランスデューサの用途
- エネルギー生産と配電の高圧送電線のテスト,発電機を主な電力網に同期させる
- 航空宇宙 - エンジンおよびパワーシステムのテスト
- 自動車 - 電気回路システムテスト,ハイブリッド,電気モーターテスト
- 交通機関 - 電気式地下鉄車両,サードレールとパンタグラフのテスト,電気エネルギー配給センタ
電圧トランスデューサの長所
- テストエンジニアや技術者に必要不可欠な安全性を提供
- 使いやすさ
- ほとんどのモデルで外部電源が不要
- 長寿命化を実現
電圧トランスデューサの短所
- 高額になることも
エイリアシングとは何ですか?
例えばAC電圧が10kHzの正弦波だったとして、そこから1秒に1回しかサンプルを取れないとします。当然ながら、収録結果は完全に間違ったものになります。
1つのサンプルを取るあいだに1万個の正弦波が通過します。得られる「信号」は、波形のように見えますが完全に間違っています。実際の信号の "エイリアス (折り返し雑音)"になってしまうのです。信号のように見えても、もちろん間違っているので危険です。
例を挙げて説明しましょう。下の図は私たちが計測しようとしている実際の信号を表しています。
計測したい信号
ここで、十分な速度でサンプリングされていないことを仮定してみてください。実際には、以下のグラフの点で示される速度でサンプリングしています。
実際のサンプルの位置は赤で示されている
このプロセスを経て「信号」がどのようなものになるのかもうお分かりでしょう。
エイリアス(折り返し雑音)信号
これは完全に間違った結果で、実際の信号とはまったく似ていません。並べてみましょう。
左:実際の信号 右:エイリアシングされた信号
エイリアシングの最も解りやすい解決策は、単純にサンプルレートを速くして信号の周波数がサンプルレートの許容範囲よりも高くならないようにすることです。
しかし実際にはそれが常に可能とは限りません。 例えば、予期せぬトランジェント(過渡)が起こることもあります。
ADCの前にアナログ領域でフィルタリングすることで、エイリアシングの問題を未然に防ぐことができます。対象の周波数範囲をキャプチャするのに十分な高さのサンプルレートを設定することは重要ですが、少なくともアンチエイリアシングフィルタ(AAF)を使用すれば、誤った「エイリアス」(折り返し雑音)信号が計測の整合性を損なうことを避けることができます。
理想的なAAFは非常にフラットな通過帯域と、ナイキスト周波数(実質的にサンプルレートの半分)での非常にシャープなカットオフを持っています。
アンチエイリアシングフィルタの周波数特性図
一般的なAAFの構成:ADCの前に急峻なローパスアナログフィルタを設け、ADCの最大帯域幅の半分以上の信号が通過しないようにする。 これは、SIRIUS-HSモジュールに搭載している16ビットSAR ADCで実現しています。
ただし、SIRIUS,KRYPTON,IOLITEデータ収録システムのほぼすべての製品に搭載されている24ビットのデルタシグマADCでは、ADC自体に追加のDSPフィルタを搭載しており、ユーザーが選択したサンプルレートに基づいて自動的に調整されます。このマルチステージアプローチにより、現在のDAQシステムで最も堅牢なアンチエイリアシング・フィルタリングを実現しています。
電圧計測装置の比較
電圧は最も頻繁に記録される信号の一つであり、世界中のほぼすべてのDAQハードウェアは、何らかの形で電圧を計測することができます。また、実験室用のオシロスコープや電圧計など、他の機器でも電圧を計測することができます。
例えば、電圧計は非常に正確ですが帯域幅が狭い,オシロスコープは非常に広い帯域幅を持っていますが、それほど精度は高くありません。 下の表は、それぞれの電圧計測装置での低域と高域,精度と帯域幅ごとの特性を示したものです。
製品 | 低電圧レンジ | 高電圧レンジ | 精度 | 帯域幅 |
---|---|---|---|---|
電圧計 / デジタルマルチメータ | ミリボルト | 1000 V | 非常に良い | 非常に低い |
オシロスコープ | ミリボルト | 50 V (分圧器を使用するとさらに高くなる) |
普通~良い | 非常に高い |
データロガー | 低電圧 | 100 V | 適正~良好 | 低 |
DAQシステム | マイクロボルトまたはミリボルト | 100V~1000V | 非常に良い | 中級 |
パワーアナライザ | ミリボルト | 100 V~1000 V | 非常に良い | 中級 |
さらに、非常に小さな電圧つまりマイクロボルトの範囲で、数千ボルトまで計測する必要がある場合があります。このように大きく異なる信号レベルをデジタル化可能な正規の出力に変換するには、複数の入力レンジを持つプリアンプが必要です。また、微小な電圧が大きなDCオフセットの上に乗っていることもあり、これも多くの計測システムが苦手とする課題です。
電圧レンジ別に見る、電圧計測に適したDEWESoft製品
製品 | 0-10 V | 0-50 V | 0-200 V | 0-1000 V | 1000 V+ |
---|---|---|---|---|---|
√ compatible (xxx) = requires modules and/or accessories | |||||
SIRIUS | √ (LV, HV, STG, ACC) | √ (LV, HV) | √ (HV) | √ (HV) | √ (PT) |
KRYPTON (多チャネルタイプ) |
√ (LV, STG) | √ (LV) | √ (STG + DSI-V-200) | √ (LV + PT) | √ (LV + PT) |
KRYPTON ONE (1チャネルタイプ) |
√ (LV, HV, ACC, STG) | √ (LV, HV, STG) | √ (LV, HV, STG + DSI-V-200) | √ (HV) | √ (HV + PT) |
IOLITE-Rシリーズ | √ (LV, STG) | √ (LV, STG) | √ (STG + DSI-V-200) | √ (STG + PT) | √ (STG + PT) |
IOLITEシリーズ | √ (LV, STG) | √ (LV, STG) | √ (STG + DSI-V-200) | √ (STG + PT) | √ (STG + PT) |
DEWE-43A | √ | √ (DSI-V-200) | √ (DSI-V-200) | √ (PT) | √ (PT) |
MINITAUR | √ | √ (DSI-V-200) | √ (DSI-V-200) | √ (PT) | √ (PT) |
SIRIUS MINI | √ | - | - | - | - |
SIRIUS データ収録システム
SIRIUS-HS (High Speed)は、USBやEtherCAT®でコンピュータに接続するモジュール式の「スライス」から、R3ラックマウントシステム、そしてコンピュータを内蔵したR1, R2, R8スタンドアローンシステムまで幅広い構成が可能です。
DEWESoftのシグナルコンディショナ「SIRIUS DualCore」と「SIRIUS-HS」を見てみると、これらのモジュールはいずれもチャネル間およびチャネル-グランドの絶縁電圧が1000Vであることがわかります(HVモジュールはさらにCATIIの安全規格を取得)。
実データ収録では、信号入力だけではなくシグナルコンディショナが励磁電圧や電流を供給してセンサに電力を供与することもよくあります。ストレインゲージ,ロードセル,RTD,LVD,IEPE加速度計などは、電力を必要とするセンサの良い例です。
DAQシステムメーカーは見落としがちですが、これらの励起ラインを絶縁することが重要です。このためDEWESoftは製品ラインアップでは、入出力およびチャネル間絶縁と差動入力機能を備えさらに過電圧保護を提供することで、製品機器とオペレータをグラウンドループから保護しています。
電圧用SIRIUS DualCore®モジュール
高ダイナミックレンジのSIRIUSモジュール。直接電圧計測およびDSIアダプタの使用:
SIRIUS DualCore®モジュール(SIRIUS スライスごとに最大8つの入力チャネル) | |||||
---|---|---|---|---|---|
LV(低電圧) | HV(高電圧) | STG(ユニバーサル/LV) | STGM(ユニバーサル/LV) | ACC (IEPE, LV) |
|
入力レンジ | ±200V, ±20V, ±10V, ±1V, ±100 mV | ±1200 V, ±50 V |
±50V, ±10V, ±1V, ±100mV | ±10V, ±1V, ±100 mV, ±10 mV |
±10 V, ±500 mV |
入力カップリング | DC, AC 1Hz (3, 10 Hz SW) | DC | DC, AC 1Hz (3, 10 Hz SW) | DC | DC, AC 0.1Hz, 1Hz |
センサ励起 | 2..30 V bipolar, 0..24 V unipolar, max. 0.2A/2W | N/A | 0..20 V max. 0.8W, 0..60mA max 0.5W | 0..15V max. 44mA | (IEPE only) 2,4,8,12 |
アイソレーション 電圧 |
1000 V | CATII 1000V | 1000 V | 1000 V | 1000 V |
注:LVモジュールのセンサ励起には、DB9入力コネクタが必要です。
SIRIUS-HD 電圧用高密度モジュール
多チャネルアプリケーションに対応した、最大16チャネルの高密度SIRIUSモジュール
SIRIUS-HD (高密度) モジュール (最大16チャネル) | |||
---|---|---|---|
HD-LV(低電圧) | HD-STGS (ユニバーサル/LV) |
HD-ACC(IEPE/LV) | |
入力レンジ | ±100V, ±10V, ±1V, ±100 mV | ±10V, ±1V, ±100 mV, ±10 mV | ±10 V, ±5V, ±1V, ±200mV |
入力カップリング | DC | DC | DC, AC 0.1 Hz, 1Hz |
センサ励起 | 2..30 V bipolar, 0..24 unipolar, max. 0.2A/2W | 0..12V max. 44mA | IEPE only 4,8,12 mA |
アイソレーション電圧 | 500 V in pairs | 500 V in pairs | 500 V in pairs |
注:LVモジュールのセンサ励起には、DB9入力コネクタが必要です。
SIRIUS-HS 電圧用高速モジュール
選択可能なエイリアスフリーフィルタリングを備えた1MHz 16ビットSARテクノロジーは、過渡現象計測に最適です。最大8チャネルのSIRIUSモジュール
SIRIUS-HS (高速) モジュール (最大8チャネル) | ||||
---|---|---|---|---|
HS-LV(低電圧) | HS-HV(高電圧) | HS-STG(ユニバーサル/LV) | HS-ACC (IEPE/LV) |
|
入力レンジ | ±100V ... ±50 mV | ±1600 V ... ±20 V | ±50V ... ±20 mV | ±10V ... ±100 mV |
入力カップリング | DC, AC 1Hz (3, 10 Hz SW) |
DC | DC, AC 1Hz (3, 10 Hz SW) |
DC, AC 1Hz (3, 10 Hz SW) |
センサ励起 | 2..30 V bipolar, 0..24 V unipolar, max. 0.2A/2W | N/A | 0..20 V max. 0.8W, 0..60mA max 0.5W | IEPE only 4,8,12 mA |
アイソレーション 電圧 |
1000 V | CATII 1000V | 1000 V | 1000 V |
注:LVモジュールのセンサ励起には、DB9入力コネクタが必要です。
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DEWE-43AとMINITAUR
DEWE-43Aは、携帯性に優れたハンディタイプの汎用データ収録システムです。ロック式のUSBコネクタでコンピュータに接続し、8つのユニバーサルアナログ入力を備え、低電圧を直接計測できるほか、DSI-V-200アダプタを使用して最大±200Vの電圧を計測できます。
DEWE-43AとMINITAURのアナログ入力は差動式ですが絶縁されていません。基本的にDEWE-43Aにコンピュータとその他いくつかの機能を組み合わせて、1つのポータブルな筐体に収めたものです。
左:DEWE-43A 右:MINITAUR
どちらの製品も差動式ユニバーサル入力を備えており、基本的にはフルブリッジ/低電圧モジュールで、前述のように±200Vまでの電圧だけでなく、さまざまなセンサに対応したDSIアダプタが使用できます。DSIアダプタはTEDS技術を採用しており、DewesoftX で自動的に設定されます。DSIアダプタを選択した入力に接続すると、DewesoftXで自動認識されるのですぐに計測を開始することができます。
電圧計測用 DEWE-43AとMINITAUR
DEWE-43A | MINITAUR | |
---|---|---|
電圧範囲(直接) | ±10 V, ±1 V, ±100 mV, ±10 mV | DualCoreADCの高域と低域: ±10V (500 mV), ±1V (50 mV), ±100mV (5 mV), ±10mV (0.5 mV) |
DSI-V-200を使用した 電圧範囲 |
最大±200V | 最大±200V |
入力カップリング | DC | DC |
センサーパワー | ±5 V ±0.1 % bridge sensor supply, 70 mA limit (DSIアダプタ使用時は使用不可) |
0 to 12 VDC software programmable (16-bit DAC), max 44 mA (DSIアダプタ使用時は使用不可) |
入力タイプ | 差動 | 差動 |
過電圧入力保護 | +70 V | In+ to In-: 50V continuous; 200 V peak (10 ms) |
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KRYPTONとKRYPTON-ONE
KRYPTONはDEWESoftが提供する製品の中で最も頑丈なシリーズです。極端な温度や衝撃、振動に耐えられるように作られており、IP67に準拠し水や埃などから保護されています。KRYPTONはEtherCAT®
を介してWindowsコンピュータ(DEWESoft独自の高耐久IP67 KRYPTON-CPUモデル含む)に接続されます。 コンピュータとは50メートルまで離すことができるので、KRYPTONを信号源の近くに設置することができます。
さまざまなDSIアダプタを接続した多チャネルKRYPTONモジュール
これらの非常に頑丈なシステムには、KRYPTON-ONEと呼ばれる1チャネルのモジュールもあります。
多チャネルと1チャネルのKRYPTONは、どちらも同じレベルの性能と堅牢性を備えています。
KRYPTON 電圧用マルチチャネルモジュール
KRYPTON LV (高アイソレーション電圧) |
STG (ユニバーサル/低電圧) |
ACC (電圧/IEPE) |
|
---|---|---|---|
チャネル数 | 4 or 8 チャネル | 3 or 6 チャネル | 4 チャネル |
電圧レンジ | ±50 V | ±10V, ±1V, ±100mV, ±10mV | ±10 V, ±5 V, ±1 V, ±200 mV |
入力カップリング | DC | DC | DC, AC 0.1 Hz, 1 Hz |
センサ励起 | N/A | 0...15 V max. 0.4W/ch (45mA limit) | IEPE 4 mA, 8 mA |
アイソレーション 電圧 |
1000 V | 差動 | 差動 |
KRYPTON-ONE 電圧用シングルチャネルモジュール
LV(低電圧) | HV(高電圧) | STG(ユニバーサル/LV) | ACC(IEPE/LV) | |
---|---|---|---|---|
電圧レンジ | ±50 V, ±10 V, ±1 V, ±100 mV |
±1000 V | ±50 V, ±10 V, ±1 V, ±100 mV |
±10 V, ±5 V, ±1 V, ±200 mV |
入力カップリング | DC, AC 1Hz | DC | DC, AC 1Hz | DC, AC 0.1Hz, 1Hz |
センサ励起 | N/A | DC | 自由にプログラム可能(16ビットDAC経由) | IEPE only 4 mA, 8 mA @ 24 VDC |
アイソレーション 電圧 |
125 VRMS CH, GND | CAT III 600 V CAT II 1000 V |
125 VRMS CH, GND | 125 VRMS CH, GND |
左:KRYPTON-ONE HVモジュール 右:KRYPTON-ONE TH-HVモジュール
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IOLITE
IOLITEは、産業用リアルタイム制御システムと強力なDAQシステムを組み合わせたユニークな製品です。 何百ものアナログおよびデジタルチャネルをフルスピードで記録すると同時に、サードパーティのEtherCAT®マスタコントローラにリアルタイムデータを送信することができます。
左:IOLITE-R12(PC接続ラックタイプ) 右:IOLITE-R8(PC接続ボックスタイプ)
IOLITEマルチチャネル入力モジュール
8xLV(低電圧) | 6xSTG(ユニバーサル/LV) | |
---|---|---|
チャネル数 | 8 | 6 |
電圧レンジ | ±100 V, ±10 V (±10 V, ±1V on request) |
±50 V, ±10 V, ±1 V, ±100 mV |
入力カップリング | DC | DC, AC 1Hz |
センサ励起 | N/A | 0 - 12 V (バイポーラ), 0..24 V (ユニポーラ) max. 0.4 W/ch |
アイソレーション電圧 | 1000 V | 差動 |
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